不妊治療には人工授精や体外受精など多くの選択肢があり、費用は数十万円から百万円を超えることもあります。
高額な自己負担を少しでも軽くするために利用できる制度が「医療費控除」です。
ただし、すべての費用が対象になるわけではありません。
検査や薬代などは医療費控除が認められる一方で、サプリメントや差額ベッド代などは控除の対象外となります。
この記事では、不妊治療で医療費控除を受けられる費用と対象外となる費用の違い、申告するといくら戻るのかをわかりやすく解説します。
医療費控除の「対象」となる不妊治療の費用一覧
不妊治療は長期間にわたり高額な費用がかかるため、確定申告で医療費控除を活用することで税金の負担を軽減できます。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税や住民税の一部が戻ってくる制度です。
不妊治療に関する支出のうち、治療に直接必要な費用や治療目的の交通費などが控除対象に含まれます。
ここでは、具体的に医療費控除の対象となる費用を一覧で紹介します。
医療費控除の対象となる 不妊治療の費用 |
概要 |
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人工授精・体外受精・顕微授精などの自己負担分 | ・人工授精 (AIH)、体外受精 (IVF)、顕微授精 (ICSI) など高度生殖医療の自己負担分 ・採卵・胚培養・胚移植・麻酔・薬剤費や注射代なども対象 ・保険適用外の追加処置も含まれる |
不妊治療に伴う検査・薬関連の費用 | ・ホルモン検査、子宮卵管造影、精液検査などの検査費用や、排卵誘発剤、ホルモン補充療法に使用する薬剤費 ・医師が治療上必要と判断した注射や座薬、点鼻薬も控除対象 |
卵子凍結の保存料・保管料 | ・がん治療など医学的理由に基づく卵子凍結保存の初期費用・保管料 ・年間数万円程度の保管料も医師が治療上必要と認めれば対象 ・将来に備えるだけの予防目的は除外 |
凍結胚の輸送費用 | ・転勤や転院などに伴い凍結胚を他院へ輸送する際の専門業者への輸送費 ・治療継続に不可欠であるため控除が認められる ・輸送必要性を示す書類や領収書が必要 |
公共交通機関の利用による交通費 | ・通院にかかる電車・バスなどの運賃 ・領収書がなくても日付・経路・金額を記録したメモで申告可能 ・遠方通院で必要な宿泊費が認められる場合もある ・自家用車のガソリン代・駐車場料金・タクシー代は原則対象外 |
医師の紹介料・紹介状等の諸費用 | ・高度医療機関への紹介状作成料や診断書発行費用 ・助成金申請に必要な証明書の発行料なども控除対象 |
人工授精・体外受精・顕微授精などの自己負担分
人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)など、高度生殖医療の自己負担分は医療費控除の対象です。
採卵や胚培養、胚移植、麻酔などにかかる費用はもちろん、不妊治療に必要な薬剤や注射代も含まれます。
例えば、1回の体外受精で30~60万円、顕微授精ではさらに高額になることがありますが、これらの支出は領収書を保管しておけば申告時に控除が可能です。
2022年4月から体外受精や顕微授精が保険適用となりましたが、保険適用外となる追加処置や自己負担分は控除の対象になります。
不妊治療に伴う検査・薬関連の費用
不妊治療では、治療方針を決定するためのホルモン検査や子宮卵管造影検査、精液検査など、多くの検査が必要です。
これらの検査費用や、排卵誘発剤、ホルモン補充療法に使用する薬剤費も医療費控除に含まれます。
病院で処方される薬だけでなく、治療目的で医師から指示された注射や座薬、点鼻薬なども対象です。
単なる健康増進目的ではなく、治療計画に基づくものであることが重要です。
卵子凍結の保存料・保管料
がん治療などの理由で将来的な妊娠を望むために卵子を凍結保存する場合、その採卵や凍結のための初期費用に加え、保管料も医療費控除の対象となります。
保存期間中に発生する年間数万円程度の保管料も、医師が治療上必要と認めたものであれば申告可能です。
ただし、純粋に「将来に備えて卵子を残しておきたい」という予防目的のみでは対象外となることがあるため、医師の診断書や治療計画書などを保存しておきましょう。
凍結胚の輸送費用
不妊治療中、採卵後に作成した胚を他院に移送する際の輸送費も、医療費控除の対象となります。
転勤や引っ越しに伴い治療先を変更する場合や、複数の医療機関で治療を進める際には、凍結した胚を専用の輸送容器で運ぶ費用が発生します。
輸送は専門業者を利用することが多く、数万円かかるケースもありますが、治療継続に不可欠であるため控除が認められます。
領収書のほか、輸送の必要性が分かる書類を保管しておくと安心です。
公共交通機関の利用による交通費
不妊治療の通院にかかる交通費も、医療費控除の対象です。
電車やバスなど公共交通機関を利用した際の運賃が該当します。また、領収書がなくても、日付・経路・金額を記録したメモを添付すれば認められる場合があります。
さらに遠方の専門クリニックへ通う場合、治療上やむを得ない理由があれば宿泊費が控除対象となるケースもあります。
例えば、片道2時間以上の移動が必要な場合など、領収書とともに通院理由を明示しておくとスムーズです。
医師の紹介料・紹介状等の諸費用
不妊治療では、専門医や高度医療機関を紹介してもらうケースも少なくありません。
その際に発生する紹介状の作成料や診断書発行費用も医療費控除の対象です。
具体的には、体外受精を実施するために他院へ紹介してもらう場合や、助成金申請に必要な証明書を発行してもらう場合などが該当します。
一見小さな支出でも、通院回数が増えると合計額が大きくなるため、領収書を忘れずに保管しましょう。
医療費控除の「対象外」となる不妊治療の費用一覧
以下は、不妊治療に関連する支出であっても、医療費控除の対象外として扱われる代表的な費用です
- 妊活セミナーや講座の受講料
- 妊活サプリメント
- 妊娠検査薬・排卵検査薬の購入費用
- 通院時のタクシー代・ガソリン代・駐車場料金など(非公共機関分)
- 入院時の差額ベッド代・個室代・特別室使用料など
- 里帰り出産など、治療目的以外の行為にかかる交通費
- リラクゼーション目的のマッサージ・整体(国家資格なし)
医療費控除の対象となるのは、医師による診療や治療、または国家資格を有する施術者による治療行為に限定されます。
そのため、妊娠を希望する目的であっても治療効果が医学的に認められないものや、自己判断で購入・利用した商品やサービスは控除の対象にはなりません。
特に交通費は公共交通機関を利用した場合のみ認められるなど細かな条件があり、判断に迷う際は領収書を保管したうえで、税務署や専門家へ相談することが大切です。
医療費控除で不妊治療にかかった費用はいくら戻ってくる?
不妊治療で支払った体外受精や顕微授精、人工授精、検査・投薬などの費用は、確定申告で医療費控除の対象となります。
医療費控除の金額は、次の計算式で求められます。
総所得金額が200万円以上か、200万円未満かによって、医療費控除額を求める計算式が変わります。
総所得金額が200万円以上の場合
総所得金額が200万円以上の場合、医療費控除額の計算で差し引く金額は、一律10万円です。
【計算例】
総所得500万円、医療費100万円、保険金補填なしのケース
医療費控除=(100万円−0円)−10万円 = 90万円
総所得金額が200万円未満の場合
総所得金額が200万円未満の場合、医療費控除額の計算で差し引く金額は、総所得金額の5%です。
【計算例】
総所得180万円、医療費40万円、保険金補填なしのケース
医療費控除=(40万円−0円)−(180万円×5%) = 31万円
国税庁の「医療費集計フォーム」を活用すれば、自分の場合にいくら戻るか簡単にシミュレーションできます。
不妊治療の医療費控除を申告する方法
不妊治療で支出した費用を医療費控除として申告するには、確定申告の手続きが必要です。
続いては、確定申告で医療費控除をスムーズに進めるための具体的なステップを紹介します。
① 医療費の「対象範囲」を確認する
まずは、不妊治療で支払った費用が、医療費控除の対象になるかどうかを確認しましょう。
例えば、体外受精・人工授精・検査・薬代は対象とされますが、妊活サプリや妊活セミナー、排卵検査薬・妊娠検査薬の購入費用、差額ベッド代や公共交通機関以外の交通費などは対象外です。
② 領収書・明細の整理と保管
次に、不妊治療にかかった費用すべての領収書を集め、医療機関・薬局・検査機関などで払った日付と金額を「医療費控除の明細書」に記入します。
交通費の領収書や公共交通機関の乗車記録も含めておきましょう。
領収書は申告後も5年間保存が求められます。
③ 確定申告書および医療費控除の明細書を作成する
「確定申告書」を作成したら、「医療費控除の明細書」を添付します。
申告書や明細書の作成には、国税庁の作成コーナーや医療費集計フォームを活用すると便利です。
明細書には医療費の合計、保険金等で補填された額、控除対象となる金額を正しく記入しましょう。
④ 控除額を計算し、申告を提出する
医療費控除額を申告書に記入したら、確定申告期間(通常は翌年の2月16日~3月15日)に税務署に提出します。
給与所得者で年末調整を受けている方も、還付申告として申告でき、申告時効は5年間あります。
⑤ 還付金の受け取り・注意点
確定申告後、申告内容に不備がなければ、所定の期間内(通常1~2ヶ月)で還付金が指定の銀行口座に振り込まれます。
不妊治療のような高額医療費が絡む場合は、助成金制度や自治体補助と重複利用できるものがあるかを確認しておくと良いでしょう。
不妊治療には医療費控除以外に助成金も活用できる
不妊治療の自己負担を軽くする方法は、医療費控除だけではありません。
国や自治体が実施する各種助成制度を併用することで、家計への負担を大きく減らすことができます。
代表的なのが「特定不妊治療費助成制度」で、体外受精や顕微授精など、高度な治療を対象に補助する仕組みです。
さらに、自治体独自の支援として追加助成を行う市区町村もあります。
例えば、東京都は都独自の不妊治療助成を実施しており、自治体によっては人工授精や検査費用の一部も対象に含まれる場合があります。
助成金は申請期限や所得制限、年齢制限などの条件が自治体ごとに異なるため、居住地の市区町村役場や公式サイトを必ず確認しましょう。
治療費が高額になりやすい不妊治療だからこそ、医療費控除と助成金を合わせて利用し、計画的に費用を抑えることが大切です。
不妊治療中の凍結胚輸送の費用も医療費控除の対象!
不妊治療で行う凍結胚輸送にかかる費用は、医師の指示に基づいた治療の一環として扱われるため、医療費控除の対象になります。
体外受精で採取した受精卵を長距離で移送する際には、専用の輸送容器や温度管理、輸送中の安全対策などが求められ、費用も決して小さくありません。
確定申告では、凍結胚輸送にかかった実費から保険金などで補填されない分を医療費として申告できます。
領収書の保管や明細書への正確な記入を行えば、所得税や住民税の負担軽減につながるでしょう。
大切な受精卵を安心して移送するには、専門知識と高い管理体制を備えた業者を選ぶことが重要です。
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