遺伝子治療やワクチン開発に欠かせない遺伝子ベクターは、温度変化に非常に敏感で、輸送時の温度管理が品質に直結します。
アデノウイルスやAAVベクターなどは、-150℃以下の超低温環境での輸送が推奨されるケースも多く、一般的な冷凍輸送では対応が難しいでしょう。
この記事では、遺伝子ベクターを安全・確実に届けるために必要な温度管理の基本と、超低温輸送が可能な「ドライシッパー」の活用方法についてわかりやすく解説します。
遺伝子ベクター輸送に温度管理が重要な理由
遺伝子ベクターは、遺伝子治療やバイオ医薬品の研究・開発において、目的の遺伝子を正確に細胞内へ導入するための重要なツールです。
アデノウイルス、レンチウイルス、AAVなど、さまざまなタイプのベクターがありますが、いずれも非常に繊細な構造を持っており、わずかな温度変化でも分解や不活化が進行するおそれがあります。
特に液体状態の遺伝子ベクターは、-20℃程度の一般的な冷凍温度では活性を長期間維持することが困難であり、-80℃以下、-150℃以下の環境が求められるでしょう。
実際、適切な温度管理が行われなかった結果、ウイルス力価が低下し、再現性が失われたり、治験データが使用できなくなるリスクも報告されています。
また、温度逸脱によって生じた品質劣化は、見た目や短期的な検査で判断しにくい一方で、研究結果や患者への重大な影響が起こるリスクがあります。
そのため、遺伝子ベクターの輸送では単なる冷蔵・冷凍ではなく、一貫した超低温環境の維持が極めて重要なのです。
-150℃以下の超低温を最長21日間維持できるドライシッパーは、遺伝子ベクター輸送に有効なソリューションとして注目されています。
品質を守り、安全かつ確実に届けるためには、温度管理を最優先に考えた輸送体制が必要不可欠です。
遺伝子ベクター輸送の方法
遺伝子ベクターの輸送にあたっては、以下の4つのステップを踏まえた計画的な輸送体制の構築が重要です。
1. 適切な温度帯の確認
まずは、輸送するベクターの種類に応じた適切な保存・輸送温度帯を確認しましょう。
一般的な指針としては以下のような分類がされます。
-20℃以下 | 一部の凍結乾燥タイプや短期的な保管用 |
-80℃以下 | 一般的な長期保存向け遺伝子ベクター(アデノウイルス、レンチウイルスなど) |
-150℃以下 | 活性を最大限維持したい場合や長距離輸送時(AAVなど) |
研究機関やCDMO(委託製造機関)からの保存条件ラベルや製品仕様書を必ず確認し、最も安定した状態を保てる温度での輸送方法を選定する必要があります。
2. 容器の選定と梱包
温度帯が決まったら、それに適した輸送容器の選定が必要です。
また、輸送中の衝撃や漏洩を防ぐため、緩衝材やチューブラックの使用、二重密封の容器を用いた厳重な梱包が推奨されます。
遺伝子ベクター輸送で主に使用される容器は、以下の通りです。
ドライシッパー
-150℃以下を最大21日間維持でき、遺伝子ベクター輸送に適した液体窒素輸送容器です。
電源不要で、IATA規格に準拠しており航空機輸送にも対応しています。
ドライアイス輸送容器
-78℃前後を一時的に維持できます。
ただし、保冷時間に限界があり、長距離輸送には不向きです。
3. IATAなど輸送規定の対応
国際輸送や空輸を行う場合は、IATA(国際航空運送協会)による危険物規定に基づいた対応が必要です。
特に液体窒素やドライアイスを使用する容器は、「UN3373(生物学的物質)」や「UN1845(ドライアイス)」などの分類に準拠しなければなりません。
ドライシッパーは多くの場合、非危険物扱いで航空輸送が可能ですが、事前に航空会社や輸送業者との確認が必要です。
通関手続きやインボイスへの記載内容も重要ですが、遺伝子ベクター輸送の専門業者に依頼するとリスクを低減できるでしょう。
また、国内輸送でも医薬品・試料の扱いに関するガイドライン(GMPやGLPなど)に則ったラベル表示・取り扱いが求められます。
4. 受け取り側との連携
遺伝子ベクター輸送では、事前に受け取り側と以下のような情報を確認・共有しておくとトラブルを防げます。
- 到着予定日・時間の確認と事前通知
- 受取担当者の連絡先
- 受取場所の液体窒素タンクや超低温冷凍庫の準備状況
- 輸送中の温度ロガーの確認方法と保存ルール
また、到着後に温度ロガーの記録を確認し、輸送中の温度逸脱がなかったことを確認することで、品質保持の証明が可能です。
超低温輸送が可能な「ドライシッパー」とは
ドライシッパーとは、液体窒素を吸収材に保持し、内部温度を-150℃以下で長期間維持できる特殊な輸送容器です。
一般的な冷凍輸送やドライアイス梱包では対応できない超低温環境が必要な試料、特に遺伝子ベクターや幹細胞、バイオサンプルなどの輸送において、多くの研究機関や製薬企業に利用されています。
電源を必要とせず、衝撃や漏洩にも強いため、長時間の輸送でも安定した品質を保てるのが魅力です。
長距離・国際輸送も可能
ドライシッパーは、国内の遠隔地輸送はもちろん、国際輸送にも対応できます。
海外のCDMO(受託製造機関)からのベクター搬送や、多拠点での研究連携、学術機関間のサンプル交換など、温度逸脱の許されない長距離輸送に最適です。
温度保持時間に余裕があるため、輸送遅延や通関手続きの時間も想定内に吸収できる点が高く評価されています。
温度ロガーによる温度管理
ドライシッパーを用いた遺伝子ベクター輸送では、温度ロガーによって輸送中の温度履歴をリアルタイムで記録することが可能です。
一部のモデルではBluetoothやUSB接続によって、PCやスマートフォンで記録データの確認・保存も簡便に行えます。
輸送完了後に温度逸脱がなかったことをデータとして確認できれば、研究の信頼性や品質保証にもつながるでしょう。
航空機対応(IATA規格準拠)
ドライシッパーはIATA(国際航空運送協会)規格に準拠して設計されており、航空機による輸送にも対応しています。
液体窒素を吸収材で保持する「ドライ」構造のため、液漏れのリスクがなく、非危険物扱いでの輸送が可能なモデルも多いです。
空路を利用したスピーディーな国際輸送や、航空貨物としての安全基準を満たした輸送体制の構築は、海外とのやり取りが多い研究機関・製薬企業にとって、大きなメリットです。
遺伝子ベクター輸送はCryoSendにご相談ください
遺伝子ベクターの輸送には、安定した超低温環境を維持できるドライシッパーの活用がおすすめです。
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さらに、CryoSendでは温度ロガーによるトレーサビリティの確保や、IATA対応の輸送書類・通関サポートもワンストップで提供しています。
輸送前後の相談対応も含め、専門スタッフが品質と安全性を第一にサポートいたしますのでご安心ください。
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