試験や研究などを目的として病原体を輸送する場合、専用の容器を用いて安全に運搬する必要があります。
この記事では、国が定める病原体(特定病原体)の分類や、輸送に用いられる容器、運搬の基準など、知っておくべき注意点と具体的な運搬方法について解説します。
病原体(特定病原体)とは
病原体とは、感染症法によって「生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体等のこと」と定義されています。
また、病原体(特定病原体)は、管理の強化のために、一種病原体等から四種病原体等に分類されています。
一種病原体等
一種病原体等とは、何人も所持してはならないとされる病原体です。
具体的には、以下6つのウイルスが当てはまります。
- エボラウイルス
- クリミア・コンゴ出血熱ウイルス
- 痘そうウイルス
- 南米出血熱ウイルス
- マールブルグウイルス
- ラッサウイルス
二種病原体等
二種病原体等とは、所持する際に、厚生労働大臣の許可を受ける必要がある病原体です。
具体的には、以下の6つのウイルスが当てはまります。
- ペスト菌
- ボツリヌス菌
- コロナウイルス属SARSコロナウイルス
- 炭疽菌
- 野兎病菌
- ボツリヌス毒素
- その他、政令で定めるもの
三種病原体等
三種病原体等とは、所持する際は厚生労働大臣に届け出をしなければならない病原体です。
具合的には、以下の25のウイルスが当てはまります。
- MERSコロナウイルス
- SFTSウイルス
- Q熱コクシエラ
- 狂犬病ウイルス
- 超多剤耐性結核菌(XDR結核菌)
- コクシジオイデス真菌
- サル痘ウイルス
- 腎症候性出血熱ウイルス
- 西部ウマ脳炎ウイルス
- ダニ媒介脳炎ウイルス
- オムスク出血熱ウイルス
- キャサヌル森林病ウイルス
- 東部ウマ脳炎ウイルス
- ニパウイルス
- 日本紅斑熱リケッチア
- 発しんチフスリケッチア
- ハンタウイルス肺症候群ウイルス
- Bウイルス
- 鼻疽菌
- ブルセラ属菌
- ベネズエラウマ脳炎ウイルス
- ヘンドラウイルス
- リフトバレーウイルス
- 類鼻疽菌
- ロッキー山紅斑熱リケッチア
四種病原体等
四種病原体等とは、所持する際の許可や届け出は必要ないものの、所持者が使用・保管等の基準を遵守しなければならない病原体です。
具体的には、以下の19のウイルスが当てはまります。
- インフルエンザウイルス(血清亜型がH2N2のもの)
- インフルエンザウイルス(血清亜型がH5N1、H7N7のもの)
- インフルエンザウイルス(血清亜型H7N9のもの)
- 新型インフルエンザ等感染症の病原体
- ベータコロナウイルス(令和2年1月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る)
- 黄熱ウイルス
- ポリオウイルス
- クリプトスポリジウム
- 結核菌(XDR結核菌を除く)
- コレラ菌
- 志賀毒素
- 赤痢菌属
- チフス菌
- 腸管出血性大腸菌
- パラチフスA菌
- デングウイルス
- ウエストナイルウイルス
- オウム病クラミジア
- 日本脳炎ウイルス
病原体(特定病原体)の輸送に使用する容器・運搬の基準
第一種〜第四種病原体等については、以下のような容器・運搬の基準が定められています。
- 運搬する場合には、容器に封入すること
- 容器は、次の基準を満たすものであること
- 容易、かつ安全に取り扱えること
- 運搬中に温度や内圧の変化、振動による破損等が生じる恐れがないこと
- みだりに開封されないようにシール等が貼り付けられていること(事業所内の運搬には適用しない)
- 内容物の漏洩の恐れがない十分な強度・耐水性があること
- 感染性物質危険物表示(バイオハザードマーク)が付いていること(事業所内の運搬には適用しない)
- 容器の車両などへの積付けは、運搬中の移動、転倒、転落などによって安全性が損なわれないように行うこと
- この他厚生労働大臣の定める基準に適合すること
病原体(特定病原体)の輸送については細かい基準が定められています。
安全に運ぶためにも遵守しなければいけません。
特定病原体等以外の病原体の輸送について
感染症法に定められた特定病原体以外の病原体についても、以下のように分類があり、それぞれ輸送に関する基準が定められています。
カテゴリーA
特定病原体等以外の病原体のうち、「その物質への曝露によって、健康なヒトに恒久的な障害や、生命を脅かす様な、あるいは致死的な疾病を引き起こす可能性のある状態で輸送される感染性物質」はカテゴリーAに分類されます。
カテゴリーAの病原体の運搬については、国連(UN)規格容器を用いて、基本三重梱包で送ることが求められています。
カテゴリーB
特定病原体等以外の病原体のうち、カテゴリーAに当てはまらない感染性物質は、カテゴリーBに分類されます。
カテゴリーBの輸送を行う際の容器については、国連規格容器を用いる必要はありませんが、一部の項目を除いてカテゴリーA病原体輸送容器と同等の性能が求められています。
特に、国際輸送の場合はカテゴリーAと同じく三重梱包が基本となります。
緊急時における臨床検体の運搬はどうすべきか
緊急事態が発生し、迅速に臨床検体を運搬しなければならない状況においても、感染性物質が含まれている可能性がある臨床検体は、
WHOが発行する「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス」に準じて輸送しなければなりません。
そのため、自力での輸送は非常に難しく、検体の輸送は運搬業者に依頼するのが一般的です。
利用する交通手段などを選定して、予め業者と委託契約を結んでおくなど、緊急時の対応方法については事前に検討しておくことが求められます。
病原体の輸送にドライシッパーを活用
病原体を含むことがわかっている、もしくはそれが合理的に予測できる感染性物質については、専用の容器を用いて安全に輸送することが求められます。
感染性物質を安全に輸送するのに適した容器が「ドライシッパー」です。
ドライシッパーとは、充填剤に液体窒素を吸収させることで、マイナス150度以下の極低温状態を保ったままの輸送が可能となる容器です。
ドライシッパーは、感染性物質だけでなく、病原体を培養させた培養物、ヒトや動物から直接採取した患者検体の輸送にも用いられています。
ドライシッパーを用いた病原体輸送を行う場合、輸送中の温度管理を徹底しなければなりません。
また、万が一病原体が漏れてしまったら、重大な事故に繋がってしまいます。
そのため、ドライシッパーを活用した病原体輸送は、業者に依頼するのが一般的です。
病原体の輸送は安全に行おう
病原体の輸送は、専用の容器を用いて安全に行う必要があります。
また、病原体の中でも、第一種〜第四種の特定病原体等については、所持する際に厚生労働大臣への許可が必要なもの、届出が必要なものがあるので注意が必要です。
輸送方法についても国際的に定められた基準があるので、必ず遵守するようにしましょう。
CryoSend(クライオセンド)では、病原体を安全安心な方法で輸送できる、ドライシッパーのレンタルサービスを承っております。
ご予算に応じてサービスを展開しておりますので、病原体の輸送を検討されている方は、ぜひ当社にご相談ください。