血液輸送は、患者の命を救うために欠かせない医療の基盤です。
輸血や治療のために使用される血液や血液製剤を、必要な場所へ迅速かつ安全に届けることが求められます。
しかし、輸送の過程には、温度管理や時間の制約といった課題が依然として残されています。
この記事では、血液輸送の具体的な流れ、主な運搬方法、課題について解説します。
輸血用血液製剤を輸送するまでの流れ
輸血用血液製剤が医療現場に届けられるまでには、いくつかの重要なステップがあります。
この工程は、血液の品質と安全性を保つために非常に重要です。
まずは、献血から輸送までの具体的な流れを説明します。
問診
血液製剤の元となる血液は、全国各地の献血ルームや移動献血車で採取されます。
献血希望者は受付で健康状態や渡航歴、感染症のリスクに関する問診を受けるのが最初のステップです。
この問診には、献血者の健康を守るだけでなく、採取される血液の安全性を確保する役割があります。
例えば、最近大きな手術を受けた人や一定の医薬品を服用している人は、感染リスクや血液の質に影響を与える可能性があるため、献血を見合わせるよう案内される可能性もあるでしょう。
献血
献血には「全血献血」と「成分献血」の2種類があります。
全血献血は、血液をそのまま採取する方法です。
採取された血液は、後ほど赤血球や血漿、血小板などに分離され、医療現場で必要な血液製剤として使用されます。
1回に採血する量は400mLが一般的ですが、これは人の体に影響が出ない範囲とされています。
採血時間は10分程度と短く、手軽に行えるため、多くの方が参加しやすい方法です。
成分献血は、血液中の特定の成分(血漿、血小板など)だけを採取する方法で、がん治療や重症患者への輸血など、特定の用途に利用されることが多いです。
専用の装置を使用して血液成分を分離し、不要な部分は献血者に戻されます。
全血献血に比べて採血時間が長く、採血には1時間ほどかかりますが、特定の治療に必要な成分を効率的に確保できるのがメリットです。
検査
献血された血液は、日本赤十字社などの検査施設で徹底した検査が行われます。
- 抗原・抗体検査
- 血液型検査
- 細菌汚染の検査
- 核酸増幅検査(NAT)
- 生化学検査
- 血球計数検査
ウイルス感染の有無や血液型の確認など、検査の種類は多岐にわたります。
不適合の血液が輸血に使用されるリスクを徹底的に排除するため、厳密な検査が行われ、検査に合格した血液のみが次の工程へ進みます。
製造
検査を通過した血液は、血液製剤に加工されます。
成分別に分離され、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤として使用される準備が整えられます。
この段階で成分ごとの保存条件が決定され、輸送に備えるための適切な容器に収められます。
保管・輸送
製造が完了した血液製剤は、その種類に応じた適切な温度で保管されます。
その後、医療機関の要請に応じて速やかに輸送されます。
輸送中は、温度や振動の管理が重要です。
例えば、赤血球製剤は一定の低温を維持する必要があります。輸送時には断熱材や冷却材が使用され、品質を維持するための工夫がされています。
さらに、輸送車両は振動を最小限に抑える設計になっており、これにより血液成分の劣化を防いでいます。
輸血用血液の輸送方法
輸血用血液を安全に届けるためには、専用の輸送手段が必要です。
続いては、主な輸送方法について詳しく説明します。
献血運搬車(血液運搬車)
日本赤十字社が運用する献血運搬車や、民間事業者が運用する血液運搬車は、血液輸送専用の車両です。
温度調整機能が備わっており、揺れや衝撃からも保護される仕様になっています。
また、近年では、災害時や僻地での輸送手段として、ドローンや航空機が試験的に導入されています。
これにより、道路が寸断された地域や緊急時でも迅速な輸送が可能になります。
専用バッグ・容器
短距離輸送の場合、血液製剤の適温が保持されるよう設計された専用の輸送バッグや容器が使用されます。
温度管理を徹底するとともに、輸送中の振動や漏洩を防ぐ工夫がされているのが特徴です。
また、輸送する血液製剤の種類によって適切な容器は異なります。
例えば、極低温状態で輸送が必要な血漿・幹細胞・臍帯血などを輸送する際には、-150℃以下の低温状態を長期間維持できる液体窒素容器(ドライシッパー)が活躍するでしょう。
輸血用血液製剤の主な種類と温度管理
輸血用血液製剤は、その種類に応じて適切な保存温度や輸送方法が異なります。
これらの管理が正確に行われることで、血液製剤の品質が保たれ、患者への安全な供給が可能になります。
ここでは、輸血用血液製剤の主な種類と温度管理について解説します。
画像引用元:日本赤十字社
赤血球液製剤
赤血球液製剤とは、人の血液から血漿や白血球などを除いたものです。
貧血患者の治療や外科手術の前・中・後の輸血時に用いられます。
失血が多い緊急手術や重症貧血患者にとって、赤血球液製剤は不可欠です。
赤血球液製剤の輸送に適した温度は、2〜6℃です。
この温度帯を外れると、赤血球の変性や劣化が進み、患者の体内で十分な機能を果たせなくなる恐れがあります。
専用の冷蔵設備や断熱容器を用いた厳密な温度管理が求められるでしょう。
濃厚血小板製剤
濃厚血小板製剤とは、成分採血装置を用いた血小板成分献血によって得られる血液製剤です。
血小板の数が減少している患者や、血小板の機能に異常が見られる患者の治療に用いられています。
また、出血の危険性が高い場合に、出血予防のために投与される場合もあります。
濃厚血小板製剤の輸送に適した温度は、20〜24℃です。
血小板は温度変化に非常に敏感であるため、温度が一定に保たれるよう、輸送中の環境管理が特に重要です。
新鮮凍結血漿(FFP)
新鮮凍結血漿(FFP)とは、献血などによって得た血漿を採取後6時間以内に速やかに -40 ℃以下に凍結保存したものです。
血液凝固因子の補充を目的とする血液製剤で、複合性凝固障害を持つ患者の手術時などに用いられています。
新鮮凍結血漿(FFP)の輸送に適した温度は、-20℃以下です。
輸送には、冷凍機能を備えた専用の輸送装置が使用されます。
凍結状態が保たれない場合、凝固因子の活性が低下し、製剤としての機能が失われる可能性があるので注意しましょう。
血液輸送時に極低温管理が必要なケース
一部の血液製剤や細胞輸送には、さらに厳密な極低温管理が必要です。
ここでは、特殊な輸送ケースについて詳しく解説します。
末梢血幹細胞
末梢血幹細胞とは、血液の中にある造血幹細胞(血球を作り出すもとになっている細胞)です。
造血幹細胞は基本的には骨髄にありますが、白血球を増やす薬を投与した後などの状況では、血液中に流れ出すことがあります。
このとき、血液中に流れ出した造血幹細胞を末梢血幹細胞と呼ぶのです。
末梢血幹細胞は、免疫不全症や血液がん(白血病)の治療のための移植手術に用いられています。
末梢血幹細胞の輸送には徹底した温度管理が求められるため、-150℃以下の低温状態で輸送できるドライシッパーの使用がおすすめです。
臍帯血
臍帯血とは、出産後に胎盤や臍帯(臍の緒)から採取される血液のことです。
臍帯血の中には、造血幹細胞がたくさん含まれているため、免疫不全症や血液がん(白血病)の治療のための移植手術に用いられることがあります。
臍帯血の輸送も、徹底した温度管理が必要となります。
そのため、臍帯血の輸送にも、-150℃以下の低温状態で輸送できるドライシッパーを活用しましょう。
血液輸送における課題
血液輸送にはいくつかの課題が存在します。
温度管理の徹底
血液製剤の品質は輸送中の温度に大きく左右されます。
適切な温度が維持されなければ、製剤としての効果が失われる可能性があるため、輸送車両や容器の温度モニタリングを強化し、異常が発生した場合に即座に対応できる体制を整えることが重要です。
迅速な輸送手段の確保
緊急時には、血液製剤を迅速に届けることが患者の生死を左右します。
しかし、交通渋滞や輸送車両の不足が障害となる状況も課題となっています。
血液輸送の効率化として、ドローンや航空機を活用した輸送システムの導入も検討されています。
遠隔地への輸送コスト
山間部や離島などへの輸送では、高額な費用が問題となることがあります。
低コストで効率的な輸送手段を確立するため、自治体や医療機関の協力体制が求められるでしょう。
血液の低温輸送はCryoSend(クライオセンド)にご相談ください
血液のうち、低温状態を維持したままの輸送が求められるものについては、-150℃以下の低温状態で輸送できるドライシッパーを用いることをおすすめします。
CryoSend(クライオセンド)は、ドライシッパー輸送の専門業者です。
ドライシッパー容器のレンタル利用もしていただけますが、より確実な輸送をご希望の場合は、ハンドキャリーサービスをご活用ください。
CryoSendのハンドキャリーサービスは、経験豊富なスタッフが行います。
国内外の医療機関・研究機関等へ輸送実績は2,000件以上を誇り、創業以来事故が発生したことはございませんので、安心してお任せください。
血液の輸送にはドライシッパーなどの専門容器を用いて、徹底した品質管理・温度管理の下で行う必要があります。
CryoSendは、ドライシッパーを用いた低温輸送の専門業者です。
国内外への医療機関・研究機関への豊富な実績を誇り、お客様のニーズに合わせた最適な方法で血液の輸送を行います。
詳しい金額やサービス内容については、CryoSendまでお気軽にお問い合わせください。